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2010年4月 7日 (水)

二宮厚美氏 「今こそ垂直的な所得再分配の再構築で経済復興・格差と貧困の是正・財政改革を」

Caccyo通信100302 でかっちょ様がご案内下さった、2月24日に開かれた衆議院予算委員会での公聴会の会議録が公開されている。
ここから、二宮厚美・神戸大大学院教授の公述と、各委員と二宮氏との質疑を抜粋し、転載させていただく。

併せて、当日の衆議院テレビ の視聴と『日本は財政危機』論に迫る!~Caccyo通信100302 の再読をお薦めしたい。



<以下、第174回公聴会会議録 平成22年2月24日 から抜粋>
※【常任委員会】の「予算委員会」 →左メニューから「予算委員会公聴会」 →「第174回の号数一覧」から「第一号」を開くと当日の会議録です。


神戸大学の二宮でございます。よろしくお願いします。

 時間が限られておりますので、私の公述内容の要点、結論を先に述べておきたいと思います。

 予算案全体を通じた問題でありますけれども、財政には所得再分配機能というのがありますが、これまで小泉政権以来の構造改革では、さきにも御指摘がありましたように、所得の再分配機能を全体としては弱体化する、これが小泉構造改革の特徴であったと思います。今回の政府予算案は、この所得再分配機能について言うと、基本的には強化しなければいけない、そういう視点に立って組まれておると思いますが、この点については、私は評価したいと思います。

 ただ、問題点は、所得の再分配機能を強化するという場合に、その再分配の財源をどこから確保していくのか。すなわち、水平型でやるのか、それとも垂直型でやるのか、これが問われるわけでありますけれども、予算案は全体としては水平型になっている、ここに問題点がある。垂直型の所得再分配の構造に徹していない、これが予算案の最大の問題点ではなかろうか、こういうことが私の話の中心です。

 もうここにいらっしゃる方々は御存じかと思いますが、財政は一般的に、所得の再分配の機能、それから資源の効率的な配分、経済成長の安定化、この三つの機能が基本的にあるというのが通説でありますけれども、先ほど指摘しましたように、小泉構造改革というのは、その第一の所得再分配機能というのを弱めながら、かつ再分配の構造を水平型に徹底していく、したがっていわゆる小さな政府というのができ上がる、こういう構造であったわけであります。

 さきに指摘しましたように、全体として財政の重要な所得再分配機能というものを強化するという、例えば子ども手当の創設、農家戸別所得補償制度、さらに公立高校の授業料の無償化、こういうものは全体としては所得再分配機能の強化ということでありますから積極的に評価できるのでありますが、例えば税制改革を取り出してみても、縦型の、いわゆる上層の富を、税や社会保障制度を通じて吸い上げて、垂直型でありますから下に回す、そういう構造には必ずしもなっていない。むしろ、後でも触れますけれども、流れとしては水平型の方に向かっている。

 例えば、将来の消費税を、増税を前提にして、福祉目的税化するなりしながら財源の確保を図る、さらにまた、事業仕分け活動というのは、私は基本的にそういうものだというふうに理解しておりますが、全体としては水平型に傾斜をしている、これをやはり問題として予算案を評価しなければいけない、こういうふうに考えています。

 なぜ垂直型の所得再分配が今問われているのか。さきの公述人の方の御指摘にもありましたけれども、およそ我々や日本社会に住む人間が今解決を迫られている難問でありますけれども、三つの大きな課題に私たちは直面をしている。

 一つは、この数年間、社会全体で問題になってまいりましたいわゆる格差、貧困の深まりの問題です。さきには社会の底割れという表現が使われましたけれども、まさに底が割れるように格差が拡大をし貧困がのさばる、こういう状態。これを打開していかなければいけない。

 第二番目は、経済的な不況の問題です。現在なお、二番底の可能性は遠のいたというふうに言われておりますけれども、基本的には内需の不振に基づいて、リーマン・ショック以来の日本の不況というのがまだ深刻な様相を解消していない。この経済的破綻にどう立ち向かっていくのか。

 それから三番目は、もう言うまでもありませんが、財政の赤字、すなわち財政危機にどう立ち向かっていくのか。

 社会問題と経済問題と財政問題、この三つの難問を同時に解決していかなければいけない。これが、予算案に限りませんけれども、現在の政治に問われている課題だ。

 そういたしますと、この三つの難問をいわば三位一体的に解決しようと思うと、一つの突破口が必要になる。私は、その突破口が垂直的な所得再分配の再構築にある、こういうふうに考えています。なぜならば、垂直的な所得再分配をやって初めて、所得の分配のゆがみ、不公平、すなわち格差の広がりに対応することができる。

 例えば、現在の格差といいますのは、雇用の格差、あるいはまた労働市場の自由化に伴う派遣労働の野放し、こういうところから進行したものでありますから、まずは、その労働市場の崩れに基づいて生み出されてくる所得の第一次分配上の格差を取り締まっていかなければいけない。

 そのためには、この国会で予定されておりますけれども、そしてさきの公述人の方の発言にもあったように、労働者派遣法の徹底した見直し、すなわち日雇い派遣については禁止をする、それから製造業派遣についても原則的に禁止をする。ただ、もう国会でも問題になっておりますように、常用派遣については当面解禁の状態のまま。

 こういう問題点を克服して、現在、民主党案では、例えば最低賃金の引き上げ、それから介護労働者についてはマニフェストで月額四万円の賃金改善ということをうたっておりますが、そういう方法を通じて第一次的な所得の分配の改善をまずやる。にもかかわらず、これだけでは、現在の日本では所得の格差というのはなお是正されない。

 例えば、昨年だったと思いますが、政府はこの予算編成に当たって経済見通しというのを発表しておりますが、来年度の名目雇用者報酬については〇・七%減というのを見込んでいるわけですね。要するに、これは第一次の所得分配で、雇用者報酬の面でいうと実際上はマイナスが続く。ということは、政府の経済見通しでは雇用者報酬については改善されない。これが来年の経済見通しになっています。

 したがって、個人消費も名目でマイナス〇・二%、つまり個人消費も伸びない。それから、実質では一・〇%、こういうことになっておりますが、全体としては、第一次の所得分配が改善されないという前提に立っているために十分に内需の回復も見込めない、こういう想定になっています。したがって、どうしても再分配の機能を強化して格差の是正を図る、これが第一に必要です。

 同時に、その格差の是正というのが、実は、今触れましたけれども、家計の消費、大衆的な消費の拡充を通じて内需の回復を少なくとも呼び起こす、その刺激になり得る。現在予想されているような景気の二番底を回避するためにも、所得再分配の垂直型、これによって現在の経済的破綻に対してその進行を防止する、そういう機能を見通すことができるのではないか。

 といいますのは、もともと私は経済学が専攻でありますので、この間の不況の分析をやってまいりましたけれども、大体、戦後最大の厳密な意味での過剰生産恐慌というのは、格差社会化というのが基本的な原因になって進行したものです。すなわち、格差社会といいますのは底辺で貧困が進行いたしますから、国内では大衆的な消費というものが伸びない。つまり、消費が立ちおくれてしまう。

 ところが、格差社会の中では、上層の部分、あるいはまた大銀行や大企業に過剰なまでに富裕資金というのが集まってくる。これがアメリカ合衆国の証券住宅バブルを呼び起こす大きな要因になったというのはもう通説でありますけれども、この過剰資金というものが実はアメリカ発金融恐慌の引き金をつくった。だから、この過剰資金というものを吸い上げて、他方で格差社会の中であえぐ貧困層、低所得層にこれを回す。そうすれば、今までおくれてきた消費というものが何とか後追い的であっても回復をする。だから、垂直的な所得再分配を徹底するというのが、実は経済的破綻の進行に対する大きな歯どめの役割を果たす。そういう意味で、さきに挙げました不況打開のためにも垂直的な所得再分配の視点が今問われているんだ。

 それから、三番目の財政危機についても、もう言うまでもありません。今この財政危機を打開しようと思えば、要するに過剰資金に課税をする、これがどうしても必要です。憲法で言うところの応能負担原則というものに立って、応益負担というのは水平的な所得再分配に向かいますから、応能型でもって税制改革を進めて、垂直的所得再分配の構造というものを再構築する。

 そのためには、現在、これは皮肉なことに格差社会が生み出した過剰資金というのがありますから、この過剰資金に対して適切な課税をする。そこから上がった財源をもって、福祉の実現、社会保障の改善、医療であるとか、さきに御指摘のあった待機児童を解消して現行の保育制度を拡充していく、そういう方向に向かって改革を進めていけば、財政危機についても少なくともこれ以上の深化に対して歯どめをかけることができる。

 そういう意味で、私は、今財政全体に求められている最大の課題は、水平的ではない、あくまでも垂直的な所得の再分配構造の再構築がどうしても必要だ、こういうふうな結論に到達したわけでありますが、その視点で、さきに触れました政府予算案が水平型に向かっているのではないか、この懸念を三つの事例で確かめておきたいと思います。

 一つは、政府予算案の中では、言うまでもなく一部税制改革が行われたわけでありますけれども、税制の抜本的改革というのは基本的に先送り。この場合、抜本的改革をもし垂直的所得再分配の再構築という視点から進めるとすれば、これは、さきに触れましたように過剰資金を吸い上げる。すなわち、格差社会の中で生まれた膨大な富裕層、大企業、大銀行、これらのもとにため込まれた過剰な資金に課税する、この方向を徹底して模索する。これに、実は今回の予算案を眺めてみる限り向かっていない、むしろそれを回避している。これは大変大きな問題。

 さらにまた、これは財政需要の分野ではかなり多くの方が指摘をしつつあり、政府の税制専門委員会の中でも議論される予定になっておりますけれども、租税特別措置というものを見直して課税ベースを広げる、とりわけ企業優遇型の租税特別措置については見直して課税ベースを広げる、そういう措置を十分なさっていない。これは、水平型に向かっている一つの事例ではないか。

 それから二つ目は、さきに触れましたけれども、事業仕分け活動というのは、実は、国会議員の方でございますからもう周知だろうというふうに思いますが、もともとは小泉政権のときの構造改革の手法として小泉政権そのものが取り上げたやり方です。最初は幾つかの自治体でこれが進められました。私自身も幾つかの自治体を見て回って、例えば岡山市で構想日本のグループの方々が事業仕分け活動というのをやった。これはかなり乱暴な水平的所得再分配のやり方、しかも水平的所得再分配を徹底して縮小する、むしろ解体する、こういう流れになっているわけですね。

 なぜそうか。要は、公的な事業であるとかサービスの提供について、それの必要性については挙証責任を行政の側に預けて、徹底して、これは議会が問題にするのであればまだしもなのでありますけれども、議会の外で専門家と称する人たちが、必要か不要か、これを短時間のうちに決めてしまう。必要性がほとんどあるというふうに従来であれば認められてしまう。

 なぜかといいますと、行政がやっている仕事というのは、法律であるとかあるいは議会が決めた予算措置に基づいて行われているわけでありますから、何らかの存在理由があるわけですね。そこで持ち出されるのが、どちらで、つまり、公共機関が直接やるのが安上がりか、民間にゆだねるのが安上がりか、このいわゆる公民間のコスト比較というのをやります。

 今の状況のもとでは、民営化した方が安上がりになるというのは一般的に認められる。なぜか。民間の方が、今、派遣労働なんかを使って低賃金でやるからです。だから民営化させる。民営化するということは、アウトソーシングするということでありますから、皆さん方が問題にした、外注化の結果、官僚の天下りがむしろふえてくる。つまり、小泉構造改革の事業仕分けそのものが、実は天下り先をふやしてきたんですね。だから、これをたたいて無駄を削減する、こういうふうにマスメディアは報道したわけでありますけれども、これはイタチごっこです。

 すなわち、そういう民営化であるとか、例えば独立行政法人化、指定管理者制度を使って外注化する、そういうやり方そのものを実はもう一回、さきに言いました垂直的所得再分配の視点からすると、見直していかなければいけない、こういうふうに考えられるわけです。

 時間がありませんので、最後、三点目。

 さきに触れましたように、水平型に向かっているのではないかというふうに懸念されるのは、一つは、消費税の増税というのを自明のものとして、福祉目的型ないし年金目的型、これを想定した上での予算編成になっているということ。

 それから、地域主権という名前でもって、基本的には地域単位の受益者負担主義というふうに言っていいかと思いますけれども、地域を単位にして、受益者負担の受け皿を自治体につくってしまう、そこに土建国家的機能であるとか福祉国家的機能を挙げてゆだねてしまえば、とりわけ福祉の分野では、地域を単位にした水平的な再分配あるいは地域間の水平的な再分配、これに終わってしまう、そういう懸念が大変強いわけであります。

 そういう意味で、ぜひ今後、所得再分配の強化は水平型ではなくて垂直型で進めるべきだ、こういう視点に立って予算編成、行政改革、両方あわせて追求していただきたいという希望を申し上げまして、私の公述にしたいと思います。失礼いたしました。

~中略~

○緒方委員 民主党の緒方林太郎でございます。

 この伝統ある予算委員会中央公聴会で発言の機会をいただきまして、委員長並びに理事各位には御礼を申し上げたいというふうに思っております。

 そして、この予算委員会での審議も終盤に入ってまいりまして、貴重な公述人の皆様方からの意見を聞く機会に一部野党の方が出席をされていないということは、一国会議員として非常に残念な気持ちでございます。

 本日は、三人の公述人の方々から貴重な御意見を賜りまして、本当にありがとうございました。時間も限られておりますので、テーマを絞って御質問させていただければというふうに思っております。

 労働者派遣法の関係でございまして、昨今、過度の自由化によって非正規労働者の増大であるとか雇用の不安定化ということがございまして、政権交代後、今、労働者派遣法の改正ということで議論が進んでいるところでございます。その中では、答申も既に出ておりまして、登録型派遣、さらには製造業派遣、日雇い派遣といったものの原則禁止とか、違法派遣に対する直接雇用促進とか、そういったことが盛り込まれるのではないかと言われております。

 そういった中におきましても、私が若干懸念をいたしますのは、現代社会においては雇用の形態がかなり多様化をしているということもありまして、余り厳格に過ぎる対応というのは、結果的には雇用のミスマッチにつながることがあったりとか、かえって雇用の喪失につながるということもあるのかなと思っておりまして、制度設計においては慎重を期すべきであるという意見でございます。

 その中でも、私が非常に懸念を持っているのは、実は私は出身が北九州という町でございまして、一九〇一年、官営八幡製鉄所ができて以来、日本の物づくりを支えてきた町であると自負をしているわけでございますけれども、では、製造業派遣というものが物づくりにどういう影響を及ぼすのかということについて強い懸念を持つところがございます。

 我が町北九州には、官営八幡製鉄所におきましては、宿老という言葉がございまして、非常に技術の高い熟練工をそういうふうに指定して、会社として守り立てていくというような古い制度があるわけでございますけれども、余り製造業に派遣業の方がわあっと入ってくるようになると、技術の伝承ということがうまくいかなくなるんじゃないかということに懸念を強く抱きます。やはり日本の産業の基礎というのは物づくりでありまして、それを支えてきた技術、そこが失われることに対して強い懸念がある。

 ミタル・スチールという会社が新日鉄を買収しようとしたことがありました。これは何が欲しかったかというと、まさに日本の企業が持っている技術が欲しいからということだったわけでありますが、この日本の誇る技術というのを製造業派遣という形が損なわしめていくのであれば、製造業派遣について厳しい姿勢をとることは当然のことではないかなと思います。

 今いろいろ申し上げさせていただきましたが、今後の労働者派遣法改正のあり方について、逢見公述人、さらには二宮公述人に思いのところを述べていただければと思います。

~中略~

○二宮公述人 簡単にお答えしたいと思います。

 おっしゃるとおりでございまして、日本経済、とりわけ製造業の基本というのは、例えば、電機、自動車にしてもすべて大田が出発だというふうに言われておりますように、基本的に、技術だけではなくて技能の蓄積、とりわけ長い経験を通じた知的熟練を伴うようなスキルであるとかクラフトであるとか、こういったものが、日本の製造業、さまざまな分野の産業を支えてきた基本でありますので、派遣労働を無原則に製造業の中に導入していくとこれらが壊れてしまう、その懸念は全くそのとおりでございまして、その視点から見ても、製造業の派遣というのは大きな問題だというふうに思います。

~中略~

○阿部委員 社会民主党・市民連合の阿部知子です。

~中略~

 それから、二宮公述人には、私どもの政党でも、確かに、垂直的な分配、所得税の累進をもっと引き上げること、あるいは、法人税の租税特別措置法等を外していくこと、そして、金融・証券課税等ももっと、一〇%ではなく二〇%に戻す、相続税の問題などもこれあると思います。

 そして、この政権でもやっていきたいと思いますが、それらをやった上で、しかし、少子高齢社会を迎えておるので、間接税に頼らざるを得ない部分は出てくるのではないか。その一つが消費税だったり環境税であることも、社会構成の年齢分布、勤労層の減少そして高齢者の増加、そして、子供たちは育てていかなきゃいけないという社会の中で、ある程度負担を担い合っていくということは不可欠になってくるのかなと。もちろん前者の垂直分配をやった上でありますが、これについてはどうお考えであるかということを伺います。

○二宮公述人 ただいまの御指摘の前段の話はよくわかります。

 といいますのは、財政では量出制入という言葉がありますけれども、出る方をはかって、つまり社会保障など出す方をまず計算して、その必要な財源を、入る方を後でコントロールする、これが原則でありますから、前段おっしゃった、これから少子高齢化社会の中で社会保障がとりわけ多くの財源を必要とする、こういう考え方で税源を考えていく。

 その際に、これは憲法上といいますか税法上の大原則なんですけれども、税法学では、憲法上は税というのは応能負担しかない。つまり、憲法上許される税制の原則というのは応能負担であって、応益負担ではあり得ない。応益というのは税金を集めるときの根拠にはなるんですけれども、負担をかぶせるときにはあくまでも応能負担でなければいけない。したがって、課税対象は、この場合は所得と資産。資本主義社会でありますから、所得か資産か、どちらかを課税対象にする、課税ベースにする。

 それから、消費税について。

 例えば奢侈品税のような個別的な間接税というのは、これはいわゆる一般財源を調達するということ以上に、別の、例えば環境なんかは特別の目的を持った税ですね。だから、そういう目的税型の、例えば個別的間接税、酒税なんかそうなんですけれども、そういうものについては別途考えられると思いますが、日本の現在の一般消費税、これに依存することは憲法上はできない相談であって、やってはならないと私は思います。

~中略~

○富田委員 

 二宮公述人にお伺いしますが、先ほど来先生のお話を聞いていまして、垂直的な再分配が必要だというのはそのとおりだと思うんですが、具体的な税制改革とか、どこから税を取ってくるんだという話になったときに、過剰な資産のところから取ればいいじゃないかという先生のお話ですけれども、それが国民的な理解を得られるかというところがやはり問題なんだと思うんですね。

 一生懸命働いて所得が多くなった方たちから見たら、確かに収入があるんだから税を取られてもしようがないという部分もあると思うんですけれども、それは不公平になるんじゃないかというような思いもあると思いますし、理念として本当に先生がおっしゃるとおりだと思うんですが、具体論に突っ込んだときに、なかなか国民的な理解が得られるのか、そういった点については先生はどんなふうにお考えですか。

○二宮公述人 

 私は、国民的理解がむしろ得られると思います。といいますのは、一定の高額所得層、例えば日本でいいますと、二千万円以上ぐらいの所得の大半は不労所得なんですよね。つまり、資産所得であったり、金融的所得であったりするわけで、今お話しになった、一生懸命努力をして自分で働いて手に入れた所得、これについて課税を強化するというわけではないんだ、そうではなくて、勤労所得軽課、不労所得重課という原則がありますけれども、ここをしっかり理解してもらうということが必要になるのではないかというふうに思います。

~中略~

○笠井委員 二宮公述人に伺います。

 先ほど御意見をいただきまして、垂直型所得再分配を再構築、そういう構造に転換すべきという指摘は、私も同感であります。

 今度の予算案は、公述人も触れられた中でありましたが、子ども手当の創設というのが目玉の一つになっていて、これを契機に、昨日、本会議も含めて、この予算委員会でも、子育てに対する国の責任とは何かということが議論となっております。

 子育てのためには、保育所の待機児童の解消とか、義務教育の完全無償化とか、あるいは給食費、教材費、修学旅行の経費など、義務教育の必要経費は保護者の負担にしないという、いわば子育ての土台を整備する、そのことと相まってこそ、子ども手当などの現金給付も効果が出ると思います。

 そういう点で、今の垂直型所得再分配への転換あるいは再構築とのかかわりも含めて、子ども手当への評価の問題を伺いたいのが一点と、もう一点は、あわせてなんですが、社会保障政策を立てる上でも、現金給付と現物給付のバランスある体系というのが非常に大事で必要だと思うんですけれども、子ども手当に対する評価と、社会保障政策を立てる上でのバランスの問題について、お考えを伺いたいと思います。


○二宮公述人 御指摘のとおりでございまして、私は、子ども手当は、従来の日本の児童扶養手当的な考え方を、子供一人一人に、子供というのは社会が育てるんだ、だから子ども手当を出すんだ、こういう理念に転換させたという点では非常に評価しているわけでありますけれども、その考え方にもし立つのであれば、子供の生活といいますのは、一般の、衣食住に代表されるような日々の生活、食事をとり、眠り、外で遊びながら生活をする。と同時に、もう一つは、赤ちゃんを見れば明らかなように、ケアが必要なわけですよね。子供のケアというのは、文字どおり、保育、それから看護、それから教育という、先ほど御指摘のあった現物給付型のサービスというものが必要なわけです。

 現在問題になっている子供の貧困というのを考える場合にも、暮らしというものが子供の分野でも非常に荒れてきている、貧しくなってきている。これを現金給付の子ども手当で何とか支えていくという考え方と、それから、保育だとか、教育であるとか、あるいは乳幼児の医療であるとか、いわゆる対人社会サービスというふうに呼んでおりますけれども、その分野は徹底して現物給付原則に立つ。

 この場合、現物給付というのは、現物のサービスが提供されますよという単なるそういう意味ではなくて、公教育に見られるように、先ほど御指摘があった、公的に必要な教育や保育やまた福祉のサービスについては公共機関が責任を持って提供する、これが現物給付ということの本来の意味でございますので、現金を与えて、例えば、保育サービスを市場から買いなさいとか、教育サービスを塾のようなところから買いなさいよというのが教育サービスにおける現金給付型。

 だから、子ども手当というのは現金給付でありますから、これでもって学用品を買いなさい、子供の生活に必要なものを買いなさい、こういう思想になっているわけですけれども、その一面は評価するんですが、同時に、御指摘があったように、教育そのもの、保育そのもの、あるいは医療サービスそのものについては、これは明らかに、公共機関、または医療の場合には公的社会保険ということになりますが、これが現物をちゃんと最後保障する、そういう体制でもって、子供についても、これはお年寄りの方についてもそうだと思いますが、貫くべきである。

 ところが、現在の民主党のプランを見ておりますと、去年の十二月に、私は、これは突然出てきたので非常におかしいと思っているんですけれども、保育制度について現金給付型に転換するという。これは、厚生労働省の中でも検討はされてきておりますが、しかし、まだまとまったわけでもない。麻生政権のときのこれはあしき遺産なんですけれども、それを、実は民主党及び連立合意では別に採用するというふうに言っていたわけではないにもかかわらず、突然、景気対策のところで打ち出して、利用者補助金方式であるとか、契約型利用方式であるとか、実質上は、これは保育サービスを現金給付に転換するものです。

 だから、現金給付型のものを突然出してくるということは、明らかに、現在の政府の政策において、現金給付は多少重視してもいいけれども、今までの教育や保育や医療やというところで重視されてきた現物給付型の、公共機関が責任を持って社会サービスは提供するんだ、この仕組みを突然見直すような案を出されちゃっているものですから、子ども手当だけをもって、今の両立支援だとか少子化に対する政策だとかというものを評価するわけにはいかない。

 現物給付の面で非常に大きな後退が見られるような、そういう政策になっているという点で、御指摘のように、現物給付と現金給付、両方ちゃんとした体制をとっていかないと、現在の若い人たちの子育てに対するニーズに十分こたえることはできないというふうに思っています。この点、強調しておきたいと思います。


○笠井委員 もう一点、二宮公述人に伺いたいんですが、垂直型所得再分配の構造に転換すべきなのに、今度の予算案というのはそうなっていなくて、水平に向かう危険性、可能性が高いと言われました。将来の消費税を前提にしているとも指摘されました。

 先ほど、お答えの中で、消費税というのは憲法上やってはならないと最も強い理屈を言われたので、そこが一番強いんだと私は思うんですが、消費税というのは、考えてみますと、医療や介護を最も必要とする人たちに重くのしかかる最悪の逆進性を持つ税であって、その消費税を財源とすれば、社会保障が持っている所得再分配機能が失われる。

 そういう点でいうと、暮らしを壊す税を暮らしを支える制度の財源にすることに一番問題があるというふうに思うんですけれども、二宮公述人は消費税増税で福祉予算を確保するということについてどのように考えていらっしゃるか、問題点があるとすればどういうふうに見ていらっしゃるか、伺いたいと思います。


○二宮公述人 御指摘のように、福祉目的税型の消費税に転換をする、その上で増税を図っていくというのは非常に大きな問題があって、私は大体三つぐらい問題点があると思うんです。

 一つは、今御指摘のように、反福祉の財源でもって福祉財源を調達するというのはもともと論理的には矛盾しているので、逆進的財源でもって福祉をやるというのはおよそ論理的には矛盾したことであるというのが一点目。

 それから二点目は、福祉目的税型にすれば、国民全体が負担する消費税なんだからいいんじゃないかという理屈があるんですけれども、実は、目的税ということで消費税を福祉とリンクをしてしまうと、今度は社会保障とか福祉の側が変質するわけですよね。

 というのは、日本の憲法は二十五条で「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。」こういういわゆる福祉の権利というのを憲法で保障しているわけですね。憲法で保障された一般的、普遍的権利ですよね。これは一般財源から賄うというのが当然なのでありまして、ある一定の税金とリンクして、その財源の範囲内でやるんだということにしてしまうと、実は一般財源によって支えられるべき福祉や社会保障そのものが変質してしまう。

 つまり、これは国家財源全体によって支えられた国民の権利だ、そういう性格が逆に不鮮明になってしまうので、年金にしても医療にしても、これは国民の一般的権利であって、一般財源から調達されてしかるべきなんだ、この関係が逆に危うい、陰りを持ってくる、そういう問題点があるということ。

 それから、今の話とかかわるんですけれども、およそ何らかの極めて特定の場合を限って、目的税という形でこれを特別会計で処理する、別途社会保障勘定で処理する、そういうやり方は、財政の民主主義から見て、租税民主主義という視点から見て大体問題があるんだ。それを、まして反福祉の消費税でもってやるというのは二重三重の問題点を残すということで、何だか今のメディアの状況では、福祉のためなんだから消費税を上げてもいいんじゃないかみたいな、現在の福祉財源が貧困であるだけに、そういう動向がありますけれども、これはやはり問題ではないかというふうに思います。


○笠井委員 もう一問伺いたいんですが、二宮公述人、税制とのかかわりで、先ほど来ありましたが、昨年末に内閣府が発表したミニ経済白書を見ますと、日本の所得税や社会保険料が、米国やユーロ圏と比べても、それよりも累進性が小さいという分析もあります。これはもうかなり言われていることであります。これは、歴代の自民党政治のもとで日本の税制が富裕層を不当に優遇してきたためだというふうに思うんです。

 今、そういう点でいいますと、税制の問題で応能型負担ということも先ほど言われました、格差拡大に追い打ちをかける税制にするのか、それとも格差を是正する税制にするのかというのが鋭く問われている。その中で、いろいろな税見直し、あるいは税制の問題というのが必要だと思うんですけれども、所得税の最高税率、この問題、引き上げということが当委員会でも論議になっておりますし、この間もいろいろなところで議論になっておりますが、これは大きな課題の一つだと思うんですが、具体的にこの問題についてどうお考えか。

 それから、それを含めて、税制改革の中で、私は、やはり軍事費の削減ということもあわせて、それをやはり無駄遣いに使ってはしようがないわけで、社会保障、教育、中小企業とか農林漁業など、国民の暮らしに回していくというのは、当然リンクしなきゃ意味がないわけですが、その辺のことに関連して、公述人の御意見をいただければと思います。


○二宮公述人 今、軍事費の削減というお話があったわけですが、私は大賛成なんですけれども、その根拠というのは、先ほども税制でも申し上げましたけれども、やはり憲法に基づいて、第九条を持つ国になぜこういう軍事費が必要なのか、おかしいじゃないの、根拠はやはり憲法にあると思うんですね、もともとは。したがって、憲法に基づいて、一体、財政支出面では何が優先されなければいけないのか。

 だから、先ほど私、民主党の地域主権国家構想について若干疑問を出しましたけれども、福祉なんかは、教育も含めてですけれども、憲法で保障された国民の権利ですから、これは単純に分権化するのではなくて、やはり国家がナショナルミニマムを最優先で保障していく。

 この視点に立つと、どういう形で無駄を洗い出すかという場合に、憲法上のいわゆる公共性の原則、これで優先順位を決めて無駄を洗い出すということが一つは必要である。同時に、憲法に基づく課税原則というのは、先ほど申し上げましたように、応能負担原則で、かつては所得の最高限界税率も七五%ぐらいあったわけでありますから、これが戦後の一般的な、長い期間の累進課税の原則であったわけですね。

 だから、おっしゃるように、累進性を強めなければいけない。現在、私も財政学会に属していますけれども、財政関係者からすると、累進強化というのはもうほとんど現在の財政状況の中では合意されているんじゃないかと思うんですが、そのぐらいある意味で常識的なことなんで、それをなぜ今やらないのかが私は不思議なんですよ、逆に言えば。これだけ過剰資金があり、富裕者がいるわけですから。

 したがって、ぜひ累進強化に努めていかなければいけないというふうに思っています。


<転載終了>


■必見! 日本は財政危機ではない! 消費税を上げる必要もない!
二宮厚美・神戸大大学院教授 
菊池英博・日本金融財政研究所所長 
下地幹郎(国民新党) [消費税に関する質疑] 

■私たち国民の声を届けよう!

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小沢一郎ウェブサイト
鳩山内閣 メールマガジン 
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■以下の書籍をまだお読みでない方は是非ご一読ください、お薦めします。

小林興起氏の 「主 権在米経済」2006年5月刊
関岡英之氏の 「拒 否できない日本」2004年4月刊  (小林興起氏はじめ”抵抗勢力”とされた議員が郵政民営化に反対する端緒となった著書)
植草一秀氏 の 「知 られざる真実 -拘留地にて-」
植草一秀氏の 「売 国者たちの末路(副島隆彦氏との共著)」



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コメント

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投稿: holyrood-palace.questionvoyage.com | 2022年4月 9日 (土) 13時54分

鳩山由紀夫は嘘つき脱税王さま

ご意見ありがとうございました。

「小沢総書記」の後は「鳩山由紀夫は嘘つき脱税王」と、楽しいですね。
次も楽しみにしております。

投稿: 利他不動 | 2010年4月11日 (日) 23時20分

子ども手当てという名称であっても、子どもに使われるとは限らない。
バラマキ手当ての何割かは、民主党の支持母体の一つであるパチンコ店で使われることとなる。
民主党は在日政党だから、在日にも与えるのが最大の特徴。
財源は借金(国債)。その返済は子どもが成人したとき増税する税金で行われる。

投稿: 鳩山由紀夫は嘘つき脱税王 | 2010年4月 7日 (水) 11時21分

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